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『子夜』 【上海の街角で 井上邦久】vol8 (読む時間:約5分) 2015.06.15


 某月某日某所で「近代金融と上海」と題する講演を興味深く聞かせて頂きました。中国近現代史、上海史を専攻され、現在は上海市档案館にお勤めのかたわら、幾つかの有名大学でも教鞭を執られてきた邢建榕教授は、坦々とした口調で語り始めました。
56ページに及ぶパワーポイント資料のうち、文章が並んでいるのは4ページだけで、あとは蒋介石らの政治家、有名だと思われる銀行家、梅蘭芳・魯迅らの文化人、そして銀行や証券取引所の建物や取り付け騒動など社会現象の写真が並んでいました。
この人を喰ったような資料を活用するでもなく、あくまでも坦々と話されました。一方、並行して『非常銀行家 民国金融往時』邢建榕著(東方出版中心 2014年7月28元)という200ページ余りの本が聴衆一人一人に配られました。


 資料の内、数少ない文章部分を要約します。
【1】 上海金融档案館概況;1949年以前の金融機構は300社余り、その内に銀行は200社前後。関係する史料内容は豊富で保存良好、近代上海の金融センターの形成過程や近代上海市の発展と経済社会活動の相互関係を反映している。租界档案以外では金融档案は最も整っており、歴史的価値を具えている。(2ページ)
【2】 近代中国金融の風雲;金融と政治は密にして不可分であり、一方面では利害関係を有する。近代中国のいかなる政治活動の背景にも全て金融の影があり、当然ながら金融活動にも政治的背景がある。(8ページ)
【3】 近代銀行家の選択;近代上海の銀行家は一群の優秀なエリートであった。著名な銀行家としての宋漢章、陳光甫、銭新之、李銘らは、政治への眼光鋭敏、社会に於ける信用卓抜な名流であり、各界からの尊敬を受けていた。1949年、彼らは一つの十字路で重大な選択を迫られた・・・(49ページ)
【4】 上海はいつ、どのようにして金融センターとなったか;(1)金融機構の密集と社会貨幣資本の集中は金融センター形成の主要条件→主要な華商銀行、著名な銀行家(杜月笙を含む) (2)外資銀行の競争、是は金融センター形成の外部動力 (3)銀行家の素質と上海金融業制度の創設、是は金融センター形成の内在動力 (4)南京政府の政策決定は鍵となる(54ページ)


翻訳作業を通して味読すると、この資料は決して人を喰った構成ではなく、上記4点でセミナーの題目は十分に説明されていることに気付かされます。加えて、邢氏はキーワードとして、(1)租界 (2) 移民 (3) 変遷 を掲げ、少し丁寧に説明されました。
(1)については、上海の道路の名称(東西は都市名;南京路・漢口路など。南北は省、四川路・河南路など。現在の古北新区の道路名は伝統破壊;黄金路・紅宝石路)から各地域の特徴を説き起こされました。(徐家匯はキリスト教宣教の出発点。西洋音楽・絵画などの文化伝統の町。虹口は日本人町。県城・楊浦・南市は華界と称される中国人社会)。
(2)について上海人の90%が他の地域からの移民。各出身地の文化が流入した。
(3)については、海外勢力、清朝、北洋軍閥政府、国民党、共産党と権力の変遷にともなう時勢に対応してきた。南京政府が樹立され上海銀行が成長、首都でない北京を北平と呼称変更、天津と上海を特別市とした時期(1927年~1937年)が上海の最盛期であった、と位置付けられました。


4枚の文章ページと三つのキーワードを知ってくれれば、それで良いとされ、もし詳しく知りたかったら自著『非常銀行家 民国金融往事』を読んでくれれば良いという暗黙のメッセージを受け取りました。この著作について楊天石氏は前言の「他們都是一些什麼様的人」の文中で、邢建榕教授の民国史研究、とりわけ上海史についての業績を高く評価した上で、建榕さんは人気夕刊紙『新民晩報』に連載欄を持ち、短・信・新・趣の四つの重要な特色ある文章スタイルで広範な読者に一気に読ませていると伝え、この著作でもその「晩報体」の風格と優位性を保っていると親しみを込めて褒めています。


邢建榕教授の資料には作者の写真だけですが、著作には二編で取り上げられている、茅盾の長編小説『子夜』を偶然にも再読していたので、とても嬉しい符合でした。『子夜』副題は英文で “The Twilight, a Romance of China in 1930” 、岩波文庫の昭和45年初版の上下2冊の★は合計7個でした。
外国資本に対抗して民族工業の振興をもくろむ野心的な資本家、閘北に大きな製糸工場を持ち、フランス租界の洋館に住んでいる呉蓀甫とその一族の生活と恋愛と挫折を描いた一種の劇場小説です。民族資本家仲間、南北内戦に従事する軍人、フランス留学帰りのニヒリスト、日和見主義の学者、故郷の旧弊な番頭、組合対策に奮闘する工場長、共産党の地下組織細胞、そして主人公の呉と公債市場で一騎打ちをする趙伯韜、その間で暗躍する女スパイや仲買人などなど多くの人間が登場します。公債市場での勝負を決したのは、主人公の義兄でもある金融資本家の寝返りでした。破産した呉は、昔の恋人であった軍人への未練が残る妻に旅支度を急かせて、青島への道行に向かう場面で長編小説は終わります。


学生時代は名作をただ読んだだけでした。文化大革命の時期でもあり、魯迅以外の戦前の作品は概ね批判の対象でした。茅盾(本名は沈徳鴻。人民共和国政府文化部長としては沈雁冰の名)も、岩波文庫昭和45年初版のあとがきには消息不明と書かれています。
今、読み返して1930年代の社会風俗や民族資本家の周囲に群がる人・人・人の動きに改めて興味が湧きました。そして、現代中国の経済と政治と金融と世俗とも重ね合わせて読みました。また、小説の登場人物の語る日本の位置づけに、今に通じるものを感じました。
邢建榕教授から見れば「そんなに難しく考えなくとも好いよ。但し、やはり要は人だよね」と坦々と仰るかも知れないという気がします。   (了)


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