新規登録
コラムニスト募集中
日経新聞
DMMコラム
蘇州たより
上海の街角で
JETRO
上海日本商工クラブ
在上海日本国総領事館
ラクト
上海人
香港リーダーズ
C.L.Mリーダーズ
経営者.マガジン読者の集い
2015稲盛和夫経営哲学上海報告会
中国ニュース
株式会社TOHOKI
人気ページランキング
  • 今週
  • 今月
  • 殿堂
  • JBSコラム Vol.3

  • 会計税務、人事労務、法務、健康、教育等、会社の進出から撤退までをワンストップで支援。

  • 上海リーグ法律事務所 コラム vol2

  • ビジネスシーンで活用する中国語講座vol4

  • 知的財産権の取得・侵害対策、企業内不正対応を中心に、中国での企業活動をワンストップで支援。

  • JBSコラム Vol.3

  • ビジネスシーンで活用する中国語講座vol4

  • 知的財産権の取得・侵害対策、企業内不正対応を中心に、中国での企業活動をワンストップで支援。

  • 上海リーグ法律事務所 コラム vol2

  • 会計税務、人事労務、法務、健康、教育等、会社の進出から撤退までをワンストップで支援。

  • “One Team, No Border” 会計税務を中心に企業のグローバル化を全力で支援しております。

  • ビジネスシーンで活用する中国語講座 vol.8

  • 微博・微信を中心とする中国ソーシャルソリューションサービスをワンストップで提供しています。

  • 会計税務、人事労務、法務、健康、教育等、会社の進出から撤退までをワンストップで支援。

  • リスク管理領域を中心に日系企業の中国事業を支援させて頂きます。

『この世界の片隅に』 【上海の街角で 井上邦久】vol26 (読む時間:約4分) 2016.12.21


「バカにされたい大学」というキャッチコピーで受験生にアピールしているデジタルハリウッド大学(東京・神田)。「バカにされよう。世界を変えよう。」という姿勢で設立10年目を迎え、注目度を上げているようです。「学歴」とは、学校歴のことだけを意味して、学習歴は不問に付されることが続く中で異色の大学のようです。
そのデジタルハリウッド大学の萩野健一教授に「聖地巡礼と地域再生」についての報告を身近で聴かせて頂きました。改めて言うまでもないことと思いますが、ここでいう「聖地巡礼」とは、アニメや映画の舞台となった街や土地を訪ねて、作中人物との一体化を試みる行動のことであり、エルサレム、メッカそして四国八十八か所といった聖地を訪ねる巡礼とは異なる新しい用語です。『ローマの休日』でのスペイン広場、『君の名は』で真知子巻きの岸恵子が待った数寄屋橋は映画作品から生まれた伝説的な聖地とされます。
国内外からの訪問者が増え続けている『スラムダンク』の江ノ電踏切、『神様はじめました』の川越市などのアニメ聖地の紹介がありました。色々と新鮮な発想と情報を教えて貰いながら、「そこに住んでいる人たちがアニメをよく知らないから、なぜ急に人出が増えたのか?分からない」「増えた訪問者をしっかり捉えて地域再生にどのように結び付けるか?地元は手をこまねいている」など多くの現場の実態も知りました。ブームになっても、その多くは2~3年で潮が引いていく傾向があるようで、順風が吹いている間に、地域に根付いた産業や文化に育てるには、受発信を担う地元のキーパーソンを育むことが最も重要だ、という一つの指針に導かれました。
クールジャパンの掛け声が大きくなる前から日本のアニメの世界的な浸透力は潜在的に広まっていたのであり、最近になって鋭角的に顕在化してきたのではない、という分析には体験的にも同感できました。ただ、それに続く「アニメの技術が優れているから評価されているという見方は皮相的であり、海外の人たちはアニメを通じて日本の文化や日本人の発想法を発見しているのだ」と主張される萩野教授の考察見地が大切だと思いました。アニメ聖地の住民が「なぜ人が来るのか分からない」状態が、実は日本全体にも共通していて、多くの海外からの来訪者の来日目的や心情が「分かっていない」のではないかと考え始めました。


上海でもアニメ『君の名は。』が封切られ、爆発的な集客に関する報道や口コミが伝えられています。春節前後から新たな四ツ谷の須賀神社など新しい聖地巡礼の対象が増えることは間違いないことでしょう。前評判も高く、封切り前から既視感覚さえ感じていた人たちは、早々に日本渡航の手配を済ませているのかも知れません。一方で『君の名は。』は、いずれ航空機内サービスで視れば良いのではという余裕のある方々もいるようです。一方、DVDや機内サービスではなく、映画館に通って観てもらいたいと思うのは、こうの史代原作の『この世界の片隅に』であります。


こうの史代が漫画アクションに連載していた『夕凪の街 桜の国』を単行本で読んだのは十年以上前になります。その後、麻生久美子・田中麗奈らが演じる映画を観てからも十年近くになります。原爆投下後の広島に住み続けながら、貧しい生活のなか、原爆の後遺症やトラウマに戦い続ける人たちを描いたある意味で神聖な作品でした。
あまりにも高い評価を受けた作品のあとでの『この世界の片隅に』でしたが、肩に力を込めた神聖な世界ではなく普通の人たちの生活や世間に誘われます。夕凪の街である広島市郊外の漁村から軍港のある呉へ嫁ぐ主人公すず。実直な夫や双方の家族とのほのぼのとした世界。幼馴染の水兵や遊郭で働く貧しい出自のリンとの交流も含めて、等身大に描かれた庶民の暮らし、まさに世界の片隅の生活を細部に至るまで丁寧に積み上げていきます。積み上げた時間の長さを知らされただけに、呉の大空襲、そして広島の原爆投下によって多くの生命と記憶が短い時間で損なれたことを痛烈に感じます。ほのぼのとした世界が、瞬時に失われる酷さを感じました。長崎への原爆投下を描いた山田洋次監督の『母と暮らせば』にはある種のファンタジーが漂い、こうの史代の『この世界の片隅に』には強ばりのないリアリティを感じました。


上海では映画館上映の機会が限定的ではないかと推定される『この世界の片隅に』ですので、呉や広島が「聖地巡礼」の対象になるとは一概に言えません。しかし、多くの人たちにも何とか作品に接する工夫をしてもらい、その高度なアニメ技法とともに庶民の粘り強さや向日性気質などを感じとって貰えればなあ、と思います。
正月や春節休暇を日本で過ごす日本人や海外からの来訪者たちのために、この映画が出来るだけ長く上映され続けることを期待しています。仮に映画館へ行くタイミングを逸した場合には、原作の漫画単行本、或いは雑誌『ユリイカ』11月号の「こうの史代特集」で、その世界に接することも可能です。(了)


コラムニストの過去の記事も読む